風の香り
立秋が過ぎ風の香りも変わった。
どことなく秋の気配が感じられるようになった15日、ようやく僕は夏の終わりの旅に出た。
四国から帰ってほぼ一ヶ月。三日間仙台に出向いたことを除いてはほとんど熊本で過ごした。
家族との濃密な時間、地元の夏祭りに天草でのバカンス。
笑い声の絶えない日々の中で、また僕は一人静かに旅に出たのだ。
お気に入りの楽器とサーフボードと旅にまつわるギアを車に詰め込んで北上する。
初日は福岡の東の海辺、ランドシップのマスターのためのささやかで温かみのあるパーティーで歌をうたい、夜の海が見渡せる二階の部屋で倒れこむように眠った。
目が覚めた次の朝、5年かそれ以上ぶりの島根へ。関門トンネルをくぐり抜け、一般道路をゆっくり走った。
山あいで塩気をスコールに洗い流してもらい、道の駅の駐車場、車の中に蚊帳を吊って休んだ。
久しぶりの訪問者を益田の皆さんは優しく受け入れてくれた。
たまたま日本海の岸辺に届いた波にもタイミングよく出会えたから、リハーサルの前にサーフィンをした。
名残惜しい益田を離れ、鳥取の米子へ登った。海沿いの国道9号線をひた走る。
温泉を一つ浴びたあと、ワインを飲みながら車のベッドに横になる。
米子のフェス、シェルターでは、スピナビル、ケンタロウととびきりのセッションを楽しんだ。
やはり波も良く、今年いちばんのファンウェイブも味わった。
朝や晩はすっかり涼しくなった。どこかほっとするけれど、どこか寂しげな匂いがする。
そんな夏の終わりのせつなさがたまらなく愛おしい。
米子から何時間もかけて静岡の相良、大平洋にたどり着いた時、サーフボードを車から引っ張り出して空を見上げると、海には大きな虹が架かっていた。